GIFT
「どうしてそれを?」

「なっ‥何となくそうなんじゃないかと…」

「確かに仰る通りなんです。茉奈の容態が夜中に急変して、直ぐに検査が行われたんです。あり得ない事なんですが…病気は完治していたそうです。担当の先生は奇跡だとおっしゃっていました。それなのに茉奈は…どうして…どうしてなんだ…」

すると茉奈ちゃんの父親は張り詰めていた糸がプツリと切れてしまったかのように、とうとう泣き出してしまった。

遠藤さんの言う通りだった。

茉奈ちゃんは、あの薬が効いて病気は完治していたんだ。

でも何かが足りなかった…。

今更そんな事を考えても仕方ないのに…。

それから僕たちは茉奈ちゃんの遺体に別れを告げ、後ろ髪を引かれる思いで病院を出た。

そして車に乗り込もうとした瞬間…妙な胸騒ぎがした。

「遠藤さん…少しだけ待っててもらえますか?」

「いいわよ。いってらっしゃい」

そして僕は走った。

茉奈ちゃんのいる遺体安置室に向けて…。

後ろから、僕を追いかけてくる足音が聞こえた。

葵さんも、きっと何かを感じたに違いない。

あと、もう少しで遺体安置室に差しかかろうとしていた。

ハッ!?

すると、遺体安置室のドアから誰かが出て行くのが、遠目からでもわかった。

キィ―――――――――ン

空気が変わった。

もの凄い威圧感…

能力者…

薄暗い病院の廊下で、目を凝らしてよく見てみると、黒いコート姿の人物である事がわかった。

「ちょっと待って」

黒いコート姿の人物は僕が呼び止める声で、一瞬だけど立ち止まった。

「あんた一体誰なんだよ?」

そう言って追いかけようとした僕を意外にも葵さんは制止した。

「これ以上は危険です。やめて下さい」

「どうして?黒いコートの人物の正体を知る絶好のチャンスじゃないですか?」

「ダメです。あの人は能力者です」

えっ!?

「葵さん…」

「止めましょう」

「わかりました…追いかけるのは止めます」

僕の腕を掴んでいる葵さんの手は震えていた。

ひどく怯えている葵さんを見て、これ以上の追跡は止めるべきだと思った。

そして辺りを見回すと、既に黒いコートの人物はいなくなっていた。



『ドクッ…ドクッ…』

どこからか…心臓の鼓動が聞こえてきた。

まっ‥まさか…‥

【あっ…葵お姉ちゃん…お兄ちゃん…】

【茉奈ちゃんなの?】

【茉奈ちゃん!】

僕と葵さんは慌てて遺体安置室に駆け込んだ。

そこには…目から涙を流しながら微笑んでいる茉奈ちゃんの姿があった。

「茉奈ちゃん、おかえり…」

「葵お姉ちゃん、ただいま…」

葵さんは茉奈ちゃんを抱きしめていた。

「茉奈ちゃん…本当に良かった」

「お兄ちゃん…色々ありがとう」

「僕は何も…」

「私を助けてくれた能力者は?」

「もういないよ」

「そう…“ありがとう”くらい言いたかったのに…」

「また会えるかな?」

「いつも会ってたじゃん…うぅん、何でもない…」

よくよく考えてみたら、こうして茉奈ちゃんと直接話をするのは、これが初めてだった。

どこをどう見ても、普通の小学生の女の子にしか見えなかった。

言われなければ、能力者だなんて絶対にわからない。

それにしても、茉奈ちゃんの最後に言った言葉…

「いつも会ってた」と言っていた。

あの能力者は僕の身近にいる人物…

まさか…

何だかすごく気になる。

それよりも今は、余計な事は何も考えずに茉奈ちゃんの意識が戻ったという喜びに浸りたい…。
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