GIFT
千葉はドアをノックするように、僕の頭をコツコツと叩いてきた。

ムカッ!?

僕は頭にきて、千葉の腕を掴むとプロレス技のアームロックのような形で腕を捻りあげた。

「アイテテテ…ギッ…ギブッ…ギブギブッ…」

少し痛い目にあわせないと、コイツにはわからないんだ。

「“ギブッ”って言ってんだろ。離せバカ野郎っ」

そして僕は更に締め上げた。

「イテテテ…俺は何でお前がここにいるのか聞いただけだろっ」

「何の事だよ?」

「佐藤の妹の事だよ」

「亜季ちゃんの事?」

その名前を聞いた途端、千葉を締め上げていた腕の力がぬけて上手く逃げられた。

「お前知らないのか?」

「何を?」

「今日の午前中だろ…飛行機に乗って行っちゃうのってさ」

「はぁ?何言ってんだよ。亜季ちゃんの出発は明後日だろ?」

「そんな訳ないだろ。さっき職員室で5組の担任の片岡が電話で話してるのを聞いたんだから間違いねえよ」

嘘だっ…

そんな訳がない…

何も言わずに行ってしまうなんて…。

「それより何でお前職員室にいたんだよ?」

「松下に呼ばれたんだよ」

「またか?」

「まただよ…悪いか?」

「それじぁあ、亜季ちゃんは本当に…。ちょっと片岡先生の所に行ってくる」

慌てて職員室に向かおうとすると千葉に呼び止められた。

「片岡なら教室だぞ。それと、これを佐藤葵に返しといてくれ」

「何だよこれ?」

「昨日の夜9時過ぎに、たまたま家の近くのコンビニで佐藤に会って、宿題のノートを借りたんだ」

夜9時過ぎって…

葵さんは僕と一緒にいたはず…。

「そんな訳ないだろっ。だって葵さんは僕と…」

まさか…

「本当に葵さんだったのか?」

「当たり前だろ」

「それとな、佐藤に会う少し前に、泣きそうな顔して駅のホームで待っている妹を見かけたんだ」

「亜季ちゃんが…」

「それよりお前さ、あの2人の事見分けられないのか?」

「そんな訳ないだろ…。髪型とか雰囲気とか話し方でわかるよ…」

「もっと簡単なのがあるだろ?お前…妹ばっか見てるから、隣の席の佐藤の癖とか気付かねえんだよ」

「何だよそれ?」

「はぁ…なら教えてやる。佐藤が字を書く時、物を投げる時、何かする時は、どっちの手を使ってた?」

「そういえば…葵さん、右手を使ってたような…。だからって、葵さんだっていっ‥」

「じゃんけん…ポンッ」
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