GIFT
僕はチョキを出し、頭がパーの千葉は当然パーを出した。

「くっそぉぉぉ…‥負けたぁ」

「よしっ!?僕の勝ちだ。っていうか、何で突然じゃんけんなんだよ?」

「やっぱ、じゃんけんでしょ。これ結構使えるんだぜ」

「こんなんで2人を見分けられるのか?」

「ほぼ間違いないぜ。佐藤は必ず利き手の右手を出すし、妹も利き手の左手を出す。荷物を手に持ってなくて突然じゃんけんをされたら、大抵の人は利き手を出すだろ」

「確かに僕も今、利き手の右手を出してたけど…。それじぁあ、昨日2人に会った時も確認したのか?」

「もちろんだ。だって見た目は殆んど同じなんだから確かめないとな」

「それじぁあ、昨日の夜僕と一緒にいたのって…」

「お前、佐藤に会ってたのか?」

「まっ‥まぁね…」

「佐藤の妹、あの後、瑛太と会っていたのか」

「・・・・・」

「お前もしかして、わかんないで一緒にいたのか?」

「そんな訳ないだろっ」

亜季ちゃん…だったのか。

僕は電話で“紺野さん”と言われたものだから、葵さんと決め付けてしまっていた。

亜季ちゃんもまた最初から葵さんとして僕と接していた。

亜季ちゃんは最後の別れに、亜季ちゃんとしてではなく葵さんとして会いに来て、そして僕に抱かれた…。

未来の事を知ってしまった僕が、2度と亜季ちゃんとは会わないのを知っていたから…

気付いてあげられなかった…

気付いてあげなきゃいけなかった…。

悔しくて…

情けなくて…

目に溜まった涙が今にも溢れ出そうだった。

「千葉…ありがとうな」

僕は千葉の肩を掴んでお礼を言うと、階段を思い切り駆け上がって屋上にやって来た。

「うぅぅ…ぅぅぅ…」

そして僕は、額を地面に押しあて泣き崩れた。

亜季ちゃんを思い出すだけで涙が次から次へと溢れ出した。

亜季ちゃんの笑顔…

亜季ちゃんの困った顔…

亜季ちゃんの悲しそうな顔…

亜季ちゃんの怒った顔…

亜季ちゃんのとぼけた顔…

亜季ちゃんの泣いている顔…

亜季ちゃんの…

ずっと一緒にいたかった。

ずっと傍にいて欲しかった。

亜季ちゃんがいないだけで、こんなに苦しいなんて…

亜季ちゃんに会えないと思うと、こんなに胸が張り裂けそうなほど心が痛いなんて…

「亜季ちゃん…亜季ちゃん……」



キーンコーンカーンコーン…‥

朝のホームルームの始まるチャイムが鳴った。

でも、一度溢れ出した涙は止まる事を知らず、教室に行くのは到底無理な話だった。

あとで、松下に職員室に呼び出されて怒られればいい…。



キーンコーンカーンコーン…‥

それから数分後、再びチャイムがなった。

今度のは授業の始まるチャイムだった。

すると誰かが屋上に上がってくる足音が聞こえた。

「あぁ~疲れた。何で階段ってヤツはこんなに疲れんだよっ」

声を聞いただけで誰かはわかった。

松下…
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