GIFT
「あゆみちゃん、もう泣かないで。これあげるから」

葵さんは、自分のオマケを迷う事なく女の子に渡した。

「いいの?」

「うん。マイクが入ってるよ」

「ホントに?」

「本当だよ。開けてみて」

女の子は、袋を破って中身を取り出し始めた。

「わぁぁぁ、ヤッター! マイクだっ! ヤッターヤッター」

女の子はピョンピョン跳び跳ねて喜んでいた。

「そんなに喜んでもらえるなんて、お姉ちゃんも嬉しいよ。じゃあ特別にこれもあげちゃうね」

すると葵さんは、鞄の中から何かを取り出した。

サリーのフィギュアだった。

これって1年前に亜季ちゃんがあてた物だ。

「もらっていいの?」

「いいよ」

「ダメよっ、あゆみ。お姉ちゃんの物なんだから」

葵さんと女の子のやり取りを見ていた、母親が慌てて話しに割って入ってきた。

「だってお姉ちゃんがくれるって…」

「スイマセン、うちの子が…」

申し訳なさそうに、女の子の母親が葵さんに頭を下げていた。

「いいんです。最初から、あゆみちゃんにあげるつもりだったので」

「はぁ?」

女の子の母親は不思議そうな顔をしていた。

そりゃそうだよな…普通そういう顔になるよな。

「それじゃあ、あゆみちゃん…お姉ちゃん行くからね。バイバイ」

「お姉ちゃん、ありがとう。バイバイ」

女の子に手を振りながら、葵さんは自分の席に向かって歩き出した。

「あっ‥あの…これ、よければ食べて下さい」

すると…女の子の母親に呼び止められ、スィーツでも入っていそうなオシャレな箱を渡されていた。

「そんなに気を使わないで下さい。私があゆみちゃんにここで出会う事も、フィギュアをあげる事も、決められた未来だったんですから。それにこれは、あゆみちゃんが食べたくて買ったんじゃないんですか?」

「いいんです、また買えばいいんですから。つまらない物ですけど、もらって下さい」

「全然つまらないものじゃないですよ。私、ショートケーキ大好きですもん。しかも4個も入ってるし…」

「どうぞ、お連れの方と食べて下さい」

「ありがとうございます」

「でも…まだ開けてもいないのに、よく中身がわかりましたね?」

「あんまり深く考えないで下さい」

「そっ‥そうですか?」

女の子の母親は引きつった表情で、そう答えた。

「はぁ…」

僕は、溜息をついた。

能力を使うのはいいけど、こんな風にあからさまにしてたら変に思われるし、悪い能力者がいたら狙われるんじゃないか…。

葵さんはしっかり者だけど、どこかぬけていると言うか、ずぼらな所があるようだ。

やっぱりこういう人には、僕みたいな冷静沈着な人間が傍にいないと駄目なんだよな。

「・・・・・」

隣から嫌な視線を感じたので振り向くと、葵さんが冷ややかな目で僕を見ていた。

「なっ‥何?怒ってる?」

「そんな事ないですよ。ただちょっと、癇に障っただけ」
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