GIFT
「ゴメン…。何か怒らせるような事をしたかな?」

「いいぇ。どこか抜けてて、ずぼらな私がいけないんです。ごめんなさい」

葵さんは、よそよそしい態度で頭を下げ謝っていた。

「そっ‥そんな事言ってないでしょ?」

「言ってないけど思ってるんでしょ?」

「・・・・・」

「私って、そういう性格なんで常に冷静沈着で頼りになる人が傍にいないと駄目みたいなんです。紺野さん、誰かそういう人いませんかね?知ってたら紹介して下さい」

「えぇ…」

僕の心の中なんて全てお見通しとでも言いたげな発言だった。

しかも、冷静沈着で頼りになる人を紹介してくれだなんて、何て嫌味っぽいんだ…。

それから直ぐに店を出たが、葵さんは行き先もつけず無言で歩きだした。

しばらく歩いていると、偶然にも僕が行こうとしていた場所と方向が一緒なのに気付いた。

そして、目的の場所についた。

僕と葵さんの目指していた場所は同じだった。

たぶん偶然ではないだろう。

僕らがいるこの場所は葵さんと初めて出逢った公園の木の下だった。

「葵さん、どうしてここに?」

「紺野さんも、どうしてここへ?」

「僕は…」

「いいですよ」

葵さんは、目を閉じて少しだけ顎を突き出した。

「葵さん…ちょっと待って」

「したくないんですか?」

「したくない訳じゃないけど…」

「だったら…」

葵さんは目を閉じると、さっきよりも顎を突き出してきた。

「あっ、葵さん…その前にちょっといいかな?」

「何?」

「葵さん、お誕生日おめでとう」

「えっ…あっ‥ありがとう」

勘のいい葵さんにしては、珍しく本気で驚いていた。

自分の誕生日を忘れてた?

それとも葵さんにも見えない未来だった?

「あと、これ誕生日プレゼント」

僕は1週間前に買っておいたプレゼントをポケットから取り出して葵さんに渡した。

「うわぁぁぁ…‥ちょ~嬉しい。ありがとう。もしかして、これって婚約指輪?」

「ペアリングです」

早く告白しなきゃ…。

“好きです。付き合って下さい”その一言を言えばいいんだ…。

僕らが両想いである事はわかっている。

それに葵さんが、告白されるのを待っている事も。

僕が言わなきゃならない。

きっとこれから先、葵さんから告白してくる事は、まずないだろう。

なぜなら葵さんは、本当なら僕と付き合っていたのは亜季ちゃんであったと、未だに気にしているからだ。

それに亜季ちゃんが僕らの未来を守る為に、自ら身をひいて海外に帰国した事も…。

だから葵さんは、自分から進んで僕の元に飛び込んでくる事などあり得なかった。

「キスしなくていいんですか?」

「ちょっと待って」

「早く」

「葵さん…僕たち、まだそういう関係じゃ…」

「だったらどうしたらしてくれますか?」

「ちゃんと付き合って、こいびっ‥」

「はいっ」

「えっ…」

葵さんは僕の言葉を遮ると「はい」と言って答えた。

今僕は「ちゃんと付き合って、恋人になってからにしよう」そう言いかけていたところだった。
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