GIFT
明らかに今までとは様子が違っていた。

「はぁ…はぁ…はぁ……。どっ‥どうして…どうしてなの?」

「葵さん…」

葵さんを見ると涙を流していた。

その涙は苦しくて流しているものなのか?

それとも何かとてつもなく恐ろしい未来の映像を見てしまった事によって流しているものなのか?

僕にはわからなかった。

そして僕は、苦しんでいる葵さんの体を支えようと手を差しのべた。

「ダメッ!?触らないでっ」

葵さんは涙でグチャグチャになりながらも、必死の形相で僕を制止した。

きっと僕が葵さんの体に触れる事で、未来の映像を見られてしまうのを恐れたようだった。

そんなつもりはなかった。

僕は只…大好きな人が目の前で苦しんでいるのを黙って見ている事など出来なかっただけだ。

「ゴメン…」

僕には目の前で苦しんでいる大好きな人さえ何もしてあげられないんだね…。

「違うの…。傍にいてくれるだけいいの。私は大丈夫だから…」

すると、葵さんは両手で覆った顔を地面に押し付けて泣き崩れていた。

僕は何も出来ないまま、泣き続ける葵さんを見守る事しか出来なかった。

どれくらいたっただろう?

葵さんは、突然立ち上がるとフラつきながら歩き始めた。

そして、3メートル程歩いていたと思ったら、糸が切れた操り人形のように前のめりに倒れた…。


数時間後…

葵さんは病院のベッドの上で目を覚ました。

病院と言っても僕が小学生の時からお世話になっている街の小さなお医者さんだった。

「おいっ、瑛太。この子はお前のこれか?」

小指を立てて、そう僕に問いかけて来たのは、この病院の医院長の大橋先生だった。

風貌は口髭に丸眼鏡、髪は薄くボサボサで、どちらかと言えば小汚ない感じだ。

でも、それを凌ぐ知性溢れる顔立ちと背筋がピンと伸びた姿勢は偉い学者さんか博士のようでカッコよかった。

それに医師としての知識や技術は相当なもので、あちこちの大学病院から誘われるくらい有望な人物だと聞いた事があった。

しかし、少しばかり性格に問題があった為、人間関係が上手くいかず断ってきたらしい。

口は悪いし態度も悪い。

患者の態度に腹を立て怒鳴りつけたり、口論になったりする事もしばしばあったようだ。

そんなんでも風邪をひいたり具合が悪くなったりすれば、この地域の人は、みんな大橋先生を頼って診てもらいに来る。

「まぁ、そんなところです」

「お前に女が出来たか…世の中どうなっちまってんだ」

「別にいいじゃないですか。それより、彼女の容態はどうなんですか?」
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