離婚前提から 始まる恋
「何かあったんですか?」

家で仕事の話をすることのない勇人だから、もちろん私は何も知らない。
けれど、尊人さんがわざわざ言うくらいだからきっとよほどのことだろう。

「三朝建設が手掛けたマンションで、耐震偽装があってね」
「耐震偽装?」
「そう」

それって、本来必要な耐震対策を怠ったってこと?
確かに耐震工事は出来上がった時に目に見えるものじゃないから、ごまかすことだってできる。でも、そんな事をすれば地震が起きたときにマンションが危険にさらされるし、もしそれが公になれば三朝建設の信頼は失われてしまう。

「大丈夫なんですか?』
「うん、一応調査は終わって工事の過程で起きた確認ミスだったってことにはなったんだ。ただ、追加の補強工事でかなりのコストがかかるし、住民への補償問題もあるから、もう少し尾を引きそうだな」
「そうですか」

そんなトラブルが起きていたなんて、私は全く知らなかった。
最近帰りが遅いなとか、何か難しい顔をして考え込んでいるなとは感じていたけれど、きっと私に怒っているんだろうと思っていた。

「すみません、私全然知らなくて」
「仕方がないよ、勇人が言わないんだから」

でも里佳子さんは事情を知っていて、勇人を支えているのよね。
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