離婚前提から 始まる恋
「今日は夕食の用意とかしなくていいから、帰ったら横になって休むんだぞ」
「勇人、今日は遅いの?」
「いや、トラブルがなければ早いはずだ。時間があればジムに寄って帰るつもりだったが・・・」

わざわざ言ってくれるからきっと仕事で遅いのだろうと思ったのに、違ったらしい。

「行けばいいじゃない、ジム」

週に数回のジム通いを日課にしている勇人は程よい筋肉質のいい体をしている。
ただ、忙しい勇人にとってジムに行ける時間も貴重だから、時間がある時には行くべきだと思う。

「今日はいいよ。仕事が終わったらまっすぐ帰るから、夕食は何か出前をとろう」

え?
今までそんなこと言われたことなかったから驚いた。

「どう、したの?」
今日の勇人はいつもと違う。

「お義父さんの選挙も終わったし、花音と話をしたいと思ってね」
「ああ、うん」

なるほど、そういうことか。
私だって近いうちに話をしなければと思っていた。
でも、昨日選挙が終わったばかりなのに・・・

「花音、やっぱりどこか具合が悪いんじゃないか?」
表情の曇った私の顔を勇人が覗き込む。

「違うわ。何でもないから」

気を緩めると涙が溢れそうで、私は唇をかみしめた。

世間的には仲のいい夫婦と思われている私たち。でも実際は違う。
私たちは離婚を前提にした偽装夫婦なのだ。
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