離婚前提から 始まる恋
「ああ、ああ、」
廊下の隅で言葉少なに相槌を打つ勇人の声は暗い。
どうやらあまりいい状況ではないみたいね。

「どうかしたのか?」
なかなか部屋に戻らない私たちを心配して兄が出てきてしまった。

「うん、仕事の電話らしいわ」
「そうか」
「ねえ兄さん、明日って勇人がいないとダメなの?今日の時点で親しい方々にはご挨拶したし、明日は一般の方が多いから勇人がいなくてもいいんじゃないかしら」

「それは・・・」
やはり兄さんは困った顔になった。

「花音やめろ、まだ大丈夫だ。東京には里佳子もいるし常務も出てきてくれるらしいから」
電話を終えた勇人が私を止める。

普段の私ならここで引き下がったと思う。
けれど、実家に帰ったことで気持ちの歯止めが効かなくなっていた。

「どうして?そこまでして明日にこだわる必要はないはずいでしょう?」
「花音」

三朝財閥との縁戚をアピールしたい父の気持ちはわからなくはない。
父にとっては自慢の婿なのだろうと思う。
でも、私達は、

「どうしたの、そんなところで何を揉めているの?」
玄関から続く廊下で言い合いになっている私たちに母が寄ってきた。

「勇人ね、仕事でトラブルがあって東京に戻らなくてはならないのよ」
「あら、そうなの?」
「大丈夫ですよ、お義母さん。今のところ社に残ったもので対応していますから」
「でも、勇人が対応した方がいいに決まっているのよ。だから、勇人が東京に帰ってもいいでしょ?」
「え、それは・・・」
やっぱり母さんも「いいわよ」とは言ってくれない。

「お母さん、大丈夫です。ご心配には及びません」
「でも、勇人」
「花音、いい加減にしろ」
グッと腕を引き寄せられ、ジッと睨みつけられた。
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