離婚前提から 始まる恋
いくら広い家でも、廊下でもめていれば父の耳にも入ってしまう。
それからしばらく後、私達夫婦と両親と兄の5人は先ほどの客間に戻って座っていた。

「それで、仕事のトラブルだって?」
静かな口調で父が勇人に尋ねる。

「はい。香港の港湾再開発事業でトラブルがあるようでして・・・」
「ああ、あの事業は君のところが受注したんだったね。大きな事業だから、国会でも話題になっていた。それで、帰らなくても本当に大丈夫なのか?」
「ええ、今はまだ東京に残ったもので対応しています」
「でも、勇人に戻ってきてほしいから電話があったんじゃないの?」

今日勇人が私の実家に帰省していることは里佳子さんだって知っているはず。
そこにわざわざ電話をかけるってことはよほどのアクシデント。きっと勇人に戻ってきてほしいってことだと思う。

「だから、花音」
両親の手前声を荒げることもできず、勇人が困り果てたように私を見る。

「なあ勇人、花音の言うことも一理あるぞ。今無理しなくても、お披露目の機会はこの先何度でもあるんだ。一旦東京に戻った方がいいんじゃないか?」

珍しく勇人が私に詰め寄ろうとしたところに、兄の助け舟が入った。

「そうね、後援会の方々には今日の時点でかなりご挨拶が終わったし、問題ないんじゃありませんか?」
どうやら母さんも私と同じ意見のようで、父に助言してくれる。

「そうだな、自分の仕事が一番大事だからな」
「しかし・・・」

勇人は最後まで不満そうだったけれど、父が納得した時点で勇人の帰京が決まった。
< 145 / 233 >

この作品をシェア

pagetop