離婚前提から 始まる恋

「離婚します」

「あなたたちうまくいっていなかったの?」

勇人が帰京した後、私は母とキッチンにいた。

「そう、かもね」

何をとらえてうまくいっていると言うのかはわからないけれど、私達は世間一般で言う仲良し夫婦ではない。

「何かあったの?」
「別に」

何もない。
そもそも私達には何もない。

「ねえ、お母さんは何でお父さんと結婚したの?」
「え?」
心底驚いた顔をした母が、私をジーっと見ている。

私も母も、親の勧めるままに結婚したって意味では同じ境遇。
私自身は勇人に片思いをしていたから純然たる意味での政略結婚ではないけれど、世間から見れば変わった夫婦なのだろうと思う。
大昔ならいざ知らず、恋愛結婚が当たり前の今の時代にその選択をした母の本心をいつか聞いてみたいと、ずっと思っていた。

「もちろんきっかけはお見合いだったわよ。ちょうど大学を卒業するころに話があって、出会って2度目には結婚を決めたの」
「へー、父さんのどこがそんなによかったの?」

政治家だからってことはないけれど、口はうまいし、声はでかいし、何でも自分の思い通りにしようとする自己中なところもある。
母さんが一目ぼれするような要素が私には見つからない。
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