離婚前提から 始まる恋
母にとって父は、きっと初恋の人なのだ。
私が勇人に恋をしたように、母は父が好きになったんだわ。

「バカみたいだと思うかもしれないけれど、お父さんと手を繋いで歩いていると幸せだなって思えたの」
「バカなんて思わないよ。私も父さんの肩車が大好きだったもの」

父の側にいるとなぜか安心する。
その気持ちは私にも理解できる。

「きっかけはお見合いだったし、長い年月の中で苦労をしたこともあるけれど、お父さんと結婚して私は幸せだったと思うわ」
「うん、そうね」
私から見ても幸せそうに見える。

「花音だっていつかそう思える日が来るわ」
「そうかなあ」

ごめん、母さん。
私にはそんな日は来ないの。
だって、私と勇人は離婚するんだから。

「勇人君も責任の重い仕事をしていて大変なんだから、花音が気遣ってあげなくては駄目よ。もしケンカをしたのなら、あなたの方から謝りなさい」
「・・・」
私は返事ができなかった。

「どうしたの、花音?」
母さんの不安そうな声。

「・・・ごめん」

もう限界。
これ以上嘘は付けない。
私は母に向かって顔を上げた。
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