離婚前提から 始まる恋
「何があったんだ?」
普段は聞くこともない固い声。

どうやら兄は怒っているんだと私にもわかった。

「何もないわ。お互い別々の道を歩んでいこうと、決めただけよ」
精一杯なんでもないふりをして言ってみたけれど、じっと私を睨んでいる兄の視線が何もかもを見透かしているようで怖い。

「お前は勇人と別れたいのか?そもそも、本当に別れられるのか?」
「それは・・・」
やはり兄に嘘はつけなくて、言葉が止まった。

子供の頃から人と争うことが苦手な私は困ると逃げだすのが悪いくせ。
自己主張が弱くてなかなか本音を吐かないし、家族以外とは言いあいをしたこともない。
あ、そう言えば、先日勇人としたのが初めてのケンカだ。

「お前たち、お似合いだと思っていたんだがな」
「・・・」

確かに、私にとって勇人は特別な存在。
わがままが言えるのも、着古したジャージで風呂上がりにアイスをくわえたまま歩く姿も勇人にしか見せられない。
いつの間にか、私は勇人の隣にいることに慣れてしまった。
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