離婚前提から 始まる恋
「里佳子さん、今日は来てなかったわね」
言うつもりは無かったのに、思い浮かべていたら口から出てしまった。

「ああ、今日は出張で大阪に行ったから」
「そうなのね」
てっきり私と勇人の結婚式を見たくなくて、来なかったのかと思っていた。

「今日が結婚式で俺が行けない代わりに、里佳子と常務に行ってもらったんだよ」
「ふーん」
里佳子ねえ。

田口里佳子さんは勇人の専属秘書。
もともとは大学時代のサークル仲間で、勇人が三朝建設の副社長に就任するときに勇人自身の希望で秘書に採用したと聞いた。
噂によると大学時代には付き合っていて、今でも関係が続いているといういわくつきの女性だ。

「花音は、お義父さんの選挙のために結婚したんだよな?」
まだ私の質問には答えていないのに、逆に聞かれた。

「うん、まあ」
さすがに、「勇人が好きだからだよ」とは言えない。

「後悔してないか?」
「・・・わからない」

勇人と夫婦になったことに後悔はない。
でも、私は勇人に好きな人がいることを知っているから、そういう意味では不毛の愛。これを幸せかと言われれば違う気がする。
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