離婚前提から 始まる恋
「奥様は、それだけ副社長のことがお好きなんだと思いますよ」
呆れたような里佳子の言葉に、
「どういう意味だよ」
意味が分からない俺は聞き返してしまった。

「好きだから少しでも側にいたいと思うでしょうし、体調が悪いのに家の中を綺麗に保とうともするんでしょ?」

「部屋が片付いていたのか?」
「ええ。『散らかしたまま出てきたからびっくりするなよ』って聞かされていたわりに、とても綺麗でした」
「そうか」
花音の奴、掃除をしてくれたのか。

まさか今日花音が帰ってくるとは思わなかったから、散らかしたまま家を出た。
遅くまで仕事をしていて時間がなかったのもあるが、帰ってから片付ければいいだろうと油断したのも確かだ。
マズイな。
だらしない男だと思われたんじゃないだろうか。
綺麗好きな花音のことだから、失望するかもしれないな。

フフフ。
聞こえてきた里佳子の笑い声。

「何だよ」
いきなり笑うなんて、失礼な奴だ。

「その顔を花音さんの前でも見せればいいんですよ」
「そんなことできるか」

こんな情けない顔を花音にさらしたら、軽蔑されてしまう。
ただでさえあいつの周りには優秀な人間が多いのに。

「お互いに意地を張っているから、すれ違いが生まれるんだと思いますよ」
「そんなこと言われても・・・」
それができればこんなに苦労はしていない。
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