離婚前提から 始まる恋

「花音、久しぶり」
「ああ、杏」

日替わりランチの乗ったトレーを窓際のテーブルに置いたところで声をかけてきたのは、同期入社で友人である森村杏(もりむらあん)。
私と同じ入社3年目の25歳で、今は営業部に所属している。
身長も体形も色こそ違うけれど髪型まで私とそっくりだから、『後ろ姿を遠くから見たら見分けがつかないね』ってよく言われる。
ただし、杏の大きな目とスッと通った鼻筋、存在感のある唇はそこらへんアイドルよりも整っていて、目鼻立ちが地味な私とは全然違う。
私だって、できることなら杏のような顔に生まれたかった。

「花音は今日もＡランチね」
「うん。杏は？」
「ジェノベーゼとサラダバー」
「ふーん、パスタも美味しそう」

うちの会社のＡランチは基本的に和食。
もちろん洋食メインのＢランチもあるけれど、和食が好きな私が選ぶのはいつもAランチ。
ちなみに今日はアジフライと付け合わせのマカロニサラダ、後は選べる副菜が二品で、私はナスと厚揚げの煮びたしとほうれん草の胡麻和えを選んだ。