離婚前提から 始まる恋
今時膝をついてプロポーズをする人がいるのが驚きだけれど、すごくうれしかった。
それにしてもいつの間に花束なんて用意していたんだろう。

「これは俺からのプレゼント」

差し出された細長い箱の中に入っていたのはダイヤのネックレス。
これって有名ブランドの品で、一度銀座のショップで見たことのある限定品。

「こんな高いもの、いいの?」
「本当なら指輪にしたかったんだが、今更婚約指輪もおかしいからこれにした」
「ありがとう」
少し贅沢な気もするけれど、何よりも勇人の気持ちがうれしい。

「それと、これはお義母さんから預かった物だ」
「母から?」

差し出されたのは古びたノートが数冊。
何だろうかと手を伸ばして中を見ると・・・

「これって・・・」
それは私の育児ノートだった。

「花音が生まれてから3歳まで毎日お義母さんがつけていらしたものだ」
「母さんが・・・」
泣くつもりはないのに、目の前がかすんで見える。

はじめて寝返りした日。
はじめて立った日。
突然の発熱。
毎晩続く夜泣き。
笑顔や、泣き顔や、その時々の様子まで細かく記してあるノートは母の愛情にあふれていた。
どれだけ大切に、愛情深く、慈しみながら育ててもらったのかを今更ながら実感する。

「今までかけてもらった愛情を、今度は俺達の子にかけてやろうな」
「はい」

今はまだ親になるって実感がないけれど、少しずつ親になっていこう。
父や母がそうしてくれたように、正面から向き合って愛情深く育てて行けばちゃんと育ってくれるはず。
私は母さんから託された育児ノートを手に、これからも勇人とともに家族として生きていくことを誓った。




Fin
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