離婚前提から 始まる恋
大学時代、女の子と遊ぶよりも機械をいじっているのが好きだった俺に比べて、友達が多くて社交的だった真也。
当然女子にもモテたし、彼女がいなかった時期もないと思う。
そして、季節が変わるように連れている女の子が変わるのが真也のイメージ。
決して遊んでいるわけではないが、自分の感情を隠すのが上手いというか、本心をさらさないというか、結構な二面性を持っているのだ。

「本当に好きなら周囲の反対なんて気にせずに押し切ってしまえばいいだろう?」
30を前にして恋愛沙汰でウダウダと悩んでいる親友につい強い言葉になった。

「自分は幸せの絶頂だからって、簡単に言うなっ」

親しい人間の前以外では絶対に聞くことのない不機嫌そうな口調。これが俺の知る若狭真也の素顔。
普段から国会議員である若狭大臣の一人息子として爽やかな好青年で通っている真也は、何があっても人前でその仮面をはがすことはしない。
さすがに家族や親しい人間の前ではいくらか言葉が強くなるが、理想の息子像は絶対に崩さない。本当に孝行息子の鏡のような男だ。
そんな真也が今何をそんなに悩んでいるのか、それは・・・

「あら勇人、珍しいわね。家に帰らないと花音さんが寂しがるんじゃなくて?」

うっ、嫌な奴の登場。

「里佳子、やめろ」
俺の顔色が変わったのを見て、真也が止めに入ってくれた。

そう、真也の悩みの種はこの人物。
半年前まで俺の専属秘書をしていた田口里佳子だ。
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