離婚前提から 始まる恋
「お前たちのこと、そろそろ花音にも話していいんじゃないか?」
「いや、ダメだ」
真也の即答。

「どうして?お前たちが秘密にしろなんて言うから、俺たち夫婦もこじれたんだぞ」
自分の責任は棚に上げて、つい文句を言ってしまった。

人当たりがよくて女子にモテまくっていた真也と、美人の癖に気が強くて愛想のない里佳子は大学の終わり頃から付き合っている。
ただし、ゆくゆくは真也にお義父さんの地盤を引き継がせ国政選挙に出そうと考えている若狭家が2人の付き合いを賛成するはずもなく、真也たちはその関係をひた隠しにしてきた。
おかげで俺は花音に里佳子との関係を誤解され、離婚の危機にまで陥ったってわけだ。

「お前たちの問題を俺と里佳子のせいにするんじゃない。大体勇人が花音の気持ちをしっかりつなぎとめておかないから、こんなにこじれたんだろ」
「そうか?それだけでもないと思うぞ」
俺はチラリと里佳子の方を見た。

家庭的で、控えめで、家のため夫のために生きてきたようなお義母さんとは正反対な里佳子と付き合っていることを打ち明けられなかった真也の気持ちは、俺にだって理解できる。
実際、俺たちのことがきっかけで真也と里佳子が付き合っていることが若狭のご両親にも知られ、二人の交際に大反対されていると聞いてもいる。
そういう意味では申し訳ないなあとも思う。
しかし、そのことと里佳子が花音にしていた意地悪とは話が別だ。
いくら花音がうらやましかったんだと言われても、里佳子がなぜあんなに意地悪になれたのかが俺には全く理解できない。

「だから、ごめんなさい。花音さんにもちゃんと謝ったんだから、もう許してよ」

俺だって、半年も前に済んだ話を今更蒸し返すつもりは無い。
『常に日の当たるところを歩いてきたような花音さんが自分とは正反対に見えて、嫉妬してしまった』と打ち明けてもらったし、『里佳子が申し訳なかった』と真也からも頭を下げられた。
それに、常日頃から『里佳子』と名前呼びにしていた俺の態度に問題があったのも事実だし、何よりも花音に不信感を抱かせ不安にさせたのは俺自身だと思う。

ブブブ。
真也の携帯に着信。
見た瞬間、真也の顔色が変わった。

「どうかしたのか?」
「いや、何でもない」
そう答えたものの、真也がいつも外で見せる表の顔に戻っている。
ということは、きっと仕事で何かあったのだろう。

「ちょっと、すまない」
一旦止まった着信が再びコールした時点で、真也がスマホを手に席を立った。
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