離婚前提から 始まる恋
「そう言えば花音、久しぶりの出勤でしょ?」
「そう。1週間もお休みをもらったから、仕事が山積み」
「あら、大変」
「まあね」

自分の都合で休んだ以上文句を言える立場ではないし、休んでいる間は課長や先輩がフォローに入ってくれた。
それでも、みんな自分の仕事をしながら私の仕事までやってくれたわけで、急ぎの仕事以外は残してあって当然。
私としても、勝手に処理されるよりも残しておいてもらった方がやりやすい仕事もある。
でもねえ・・・

「尊人専務は仕事も多いから、花音一人では大変よね」

決して仕事の愚痴を口にしたつもりはないけれど、友人の杏には私の気持ちが伝わったらしい。

「そうなの。もう一人秘書がいる方が専務のためにもなると思うんだけどねえ・・・」

現在、社長と副社長には二人ずつの専属秘書が付いている。
仕事量からしても、尊人さんにもう一人専属の秘書が付くのが妥当だと思うけれど、本人が「必要ない」と言ってしまうから、今のところは私だけ。
尊人さんはどちらかと言うと何でも一人でやってしまう人だから、その気になれば専属の秘書がいなくても問題ないとでも思っているんだろう。実際それも間違ってはいないんだけれど・・・

「自分の都合でお休みをしておいて、随分勝手なことを言う人がいるのね」

え?
すぐ隣のテーブルからいきなり聞こえてきた不機嫌そうな声には聞き覚えがある。

「あの、私は別に・・・」
まずいことを聞かれてしまったと、私は思わず立ちあがった。
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