離婚前提から 始まる恋
真也の言ったとおり、ホテルの前には多くの人が集まっていた。

カメラを構えた報道関係者から、いかにも通りすがりらしい一般の人まで大勢が総理の出てくるのを待っている。

「やっぱりすごいな」
ホテルのエントランスまで来て思わず声が出た。

うちの実家もそこそこ名の知れた家だと自負している。
街を歩いていて指を指されることもなくはない。
そのことを煩わしいなと思ってきたが、さすがに一国の総理となれば次元が違う。

「もうすぐ総理がおいでになります」

SPらしき人が真也に耳打ちし、真也はゆっくりと正面玄関の方へ向かって行った。

カシャッ、カシャカシャッ。
急にあたりが明るくなり、フラッシュの明かりが目に飛び込んでくる。
同時に、
「総理、総理ッ」
周囲から上がる声。
その声に応えるように正面玄関の前で足を止めた総理が、辺りを見回す。
周囲はSPらしきスーツの集団に囲まれ、連れだって出てきた面子はテレビでも顔を見たことのある人ばかり。その中に真也の姿もある。

きっとこのまま車が横付けされて乗り込んでいくのだろうと、この時の俺は思っていた。
しかし、

「えっ」
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