離婚前提から 始まる恋
こんな日に限ってトラブルの連続。
その上来客も重なって、自分の体調を顧みる余裕もなかった。

そして、終業間近の午後5時前。
最後の来客を見送ってやっと息をついた時。
ああこれで残った事務作業を片付けようとデスクに向かった瞬間、目の前の景色が揺れて暗転した。

ゆっくりと体が落ちていく感覚。
ドンッ。と大きな音がしたところまでは自分でも覚えている。

「花音ちゃんっ」
普段職場では『若狭さん』と呼ぶ尊人さんの焦った声。

ドタドタと近づいてくる足音が聞こえて、体が浮く感覚。

「花音ちゃん、しっかりしろ」
心配そうにかけられる声に何か答えようとしたけれど、体も動かなければ声も出せないくて、ただ眼を閉じてじっとしていることしかできなかった。
その後感じた小刻みに揺れる感覚から、抱きかかえられどこかに運ばれていくのだろうとは思ったけれど・・・私の記憶はここで途絶えてしまった。

< 27 / 233 >

この作品をシェア

pagetop