離婚前提から 始まる恋
「ねえ、勇人」
エレベータに乗り、勇人が地下駐車場へ向かうボタンを押そうとしたところで声をかけた。

「何?」
しっかりと私の腕をつかんだままの勇人が私を見る。

「あのね、私一人で帰れるから。さすがに電車は辛いからタクシーを使うけれど、1人で大丈夫よ」
「却下」
はあ?

「勇人も忙しいんだから、仕事に戻って。私は本当に大丈夫だから」
「・・・」
勇人はもう私の方を見ようともしない。

「ねえ、勇人」
私はこれ以上勇人の負担になりたくはないのに・・・

「さすがにここで喧嘩をしたくはないんだ。だから今は黙っていてくれ」
「・・・勇人」

この時になって、勇人が怒っているんだとわかった。
そりゃあそうよね、仕事が忙しいのに私のために呼びつけられたんだもの。怒って当然。

「ごめんなさい」
私は勇人に謝って、それ以降口をつぐんだ。
< 32 / 233 >

この作品をシェア

pagetop