離婚前提から 始まる恋
「じゃあ、気を付けて帰るんだぞ」
「ああ」

「花音ちゃん、明日は休んでもいいからゆっくり体を休めるんだよ」
「はい、ありがとうございます」

忙しいはずの兄貴に見送られ、俺と花音は医務室を出た。
仕事のことも気にならないわけでないが、今は花音のことが優先。
仕事は里佳子と常務に任せてこのまま花音を送って行くことにした。

車に乗り込むまでは、「一人で大丈夫」だの「いいから仕事に戻って」だのと言っていた花音も、
「さすがにここで喧嘩をしたくはないんだ。だから今は黙っていてくれ」
俺がピシャリと言うと、おとなしくなった。

病人の癖に気を使うと言うか、強情と言うか、いい加減呆れてしまう。
こんな時くらい甘えていればいいのにと思うのは、俺のエゴだろうか。

「ごめんなさい」
泣きそうな顔で謝る花音。

こんな悲しそうな顔をさせたくて一緒にいる訳じゃない。
できることなら俺だって、花音の笑顔をいつまでも見ていたい。
でもきっと、無理なんだよな。
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