離婚前提から 始まる恋
え、嘘。
電話の向こうから聞こえてきた声に、息が止まりそうになった。

「もしもし、もしもし」
訝しむように聞こえてくる声は女性のもので、間違いなく里佳子さんだ。
スマホには私の名前が表示されているのだろうから、相手にも誰からの電話かわかっているはず。

「奥様、聞こえますか?」
「は、はい」
何て間抜けな返事だろうと思うけれど、咄嗟に頭が回らない。

「副社長は今シャワー中なんですが、急用ですか?」
「いえ、そういうわけでは・・・」

シャワー?
ってことは、そこはホテル。それも同じ部屋にいるってこと?
まさか、勇人に限ってそんな・・・

「奥様、どうしました?大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。あの、勇人に話があるんですが、まだ仕事中でしょうか?」

シャワーって言われた時点で仕事は終わったのだろうと思ったけれど、この後何かあるのかもしれないとかすかな期待を抱いて聞いてみた。

「いえ、もうオフです。ですが、かなりお酒が入っていますのでお話は明日以降に改めていただく方がよろしいかと思います」
「そうですか」

珍しいな、お酒に強い勇人が酔っぱらうなんて。

「何かご伝言があればお預かりいたしましょうか?」
「いえ」

里佳子さんに伝言を頼もうとは思わない。
話しなら直接したい。
でも・・・
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