とある会社の色んな恋


「えっ…ちょっ…」
「ごめんね」


原田君、
引いただろうな。


好きだった人の
奥さんみたいになりたくて、
キャラを作ってた女なんて
キモいよね。

でも、今は違う。

最初は振り向いて欲しくて、
そうしてたけど、
もう結婚してるわけだし、
私もしばらくして諦めた。

あのキャラを演じ続けたのは、
また恋愛しても、
同じことを繰り返さないため。


「原田君…」

原田君のこともっと知りたかった。
もっと一緒にいたかった。


振り返ったけれど、
彼の姿はなかった。

何期待してんだろ。







次の日、仕事に身が入らなくて、
残業になった。

「柿川係長、
体調悪いんですか?」

後輩の笹川さんが
気を遣ってコーヒーを淹れてくれた。

「ううん、大丈夫。
これ、ありがと。お疲れ」
「……お疲れ様でした」


コーヒー…
本当は苦手なんだけど…
きっと私は
コーヒーが好きそうな人に
見えるんだろうな…
  


半分だけ残っていたコーヒーが
冷たくなった頃、
気づけば周りには
誰もいなくなっていた。



「これと交換しませんか」





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