プラトニック ラブ
身を以て知った現実
セイに見つからぬようにと、人混みに紛れながら距離をとって見守っていた冴木と紗南。
ファンの熱狂ぶりを痛感した紗南は、表情が自然と暗くなっていく。
彼らが乗車するタクシーが信号を左折して姿を消すと、冴木は久しぶりに口を開いた。
「次はテレビ局で音楽バラエティ番組の収録があるんだけど、一緒に見に行く?貴方の分の許可証はないから、これから申請が必要だけど」
「いいえ、……もう充分ですから。……さよなら」
紗南は首を小さく横に振って呟くように小さくひと言だけ伝えると、冴木から逃げるように走り去った。
もう……。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
冴木さんの言う通り、セイくんは本当に休む暇がないほど忙しい。
一つ仕事が終われば、次はまた別の仕事。
そして、次の仕事が終わっても、そのまた次の仕事が待ち受けている。
ファンと顔を合わせば愛想良く手を振り、差し出されたプレゼントは気持ち良く受け取る。
どんなに疲れていても作り笑顔。
そして、見えないところでも私にメッセージを送り続けている。
仕事を終えて夜遅くに帰宅しても、当日分の仕事の反省文を書き、翌朝布団から起き上がっても、また昨日と同じような毎日がそこに待ち受けている。
こんなに窮屈な毎日を送っている彼らの一体何処に、プライベートというものが存在してるのだろうか。