プラトニック ラブ

あと一歩



「君達、ここは芸能科の生徒が立ち入る場所ではない。今すぐ東校舎から出て行きなさい」

「言われなくてもわかってる。でも、俺には今この瞬間しか時間が残されていないんだ」


「君がいくら有名人でも特例は許されない。さぁ、一緒にここを出るんだ」

「腕を離せよ。あんたの言う事なんて聞けねぇ。俺には一生に一度きりの大事な用事があるんだ」


「君達のせいで普通科の生徒に迷惑がかかってるんだ!」

「まだ戻るもんか……。たった1分だけでもいいから離せよ」



コップの中の表面張力の水のように、今にも想いが溢れ出しそうなのに。
ただ、紗南と2人きりで話がしたいだけなのに…。


引き離されそうになればなるほど…。
紗南に会いたい気持ちが募っていく。






セイは警備員の手をを振り切ろうとして身体を大きく揺さぶったが、警備員も手を緩める気はない。


力勝負では互角に近い。
だから、逃げ切れない。



飛んだアクシデントに見舞われながらも、ふと廊下の方に目をやると、ずっと奥の方に2年生の教室のプレートが見えた。




2年生…。
そう、ここは紗南に会えるまであと一歩手前のところ。
在籍している教室はどれかわからないが、紗南はこの近くに必ず居る。



邪魔が入らなければ後もう少しで紗南のところに辿り着けたのに⋯。
2人の間を阻む様々な障害によって、そのあともう少しが叶わない。

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