プラトニック ラブ
伝えられなかったひと言
紗南は必要最低限の荷物を持って家を飛び出して駅へ向かった。
スマホのホームボタンを押して現在の時刻を確認。
ーー18時45分。
もう既に出国してしまっている可能性がある。
でも、諦めてしまった瞬間終わりだと思った。
頼れる情報がないから不安が雪崩のように押し寄せてくる。
手荷物は定期と財布の入った紺色の学生鞄。
羽織っているピンクのトレンチコートとの相性は最悪。
でも、見た目なんてどうでも良い。
出国前に間に合えばそれだけで充分。
昨日は菜乃花に彼から運命の赤い糸を引っ張ってもらうまで待つように言われたけど…。
やっぱり、何もしないまま2年間なんて待てない。
吸い込まれるように流れていく街中の景色。
ハァハァとリズミカルに乱れる呼吸。
壊れそうなくらい荒れ狂う鼓動。
そして、搭乗時間まで間に合うかどうかわからない不安。
最寄駅の改札口で焦るあまりに落とした定期を蹴って転がし。
改札を過ぎた辺りで人にぶつかり、頭を下げて謝った。
空港までの電車乗り換えを間違えないように、スマホでルートを確認。
電車内の窓ガラスには今にも泣きそうな表情が映し出されている。
我慢を重ねた代償に押し固められた紗南は、間に合うようにとひたすら祈り続けながら電車を乗り継ぎ空港へと向かった。