プラトニック ラブ
彼のいない時間
ーー4月初旬。
我が校は新学期を迎え、新入生を迎えた。
午前中は体育館で入学式。
芸能科とは時間差で式が行われる。
ふと校門に目をやると、初々しい顔が勢揃い。
今年の普通科の新入生も、芸能人に会う目的で入学した生徒はきっと沢山いるはず。
つい数ヶ月前までは、毎週のように通っていた保健室。
最近は完全に足が遠退いていた。
授業中の今。
特に具合は悪くないけど、仮病を使って保健室の窓際のベッドに横になった。
窓際のベッドは、彼がいつも独占していた場所。
まっすぐ上を見上げると、何の変哲もない白い天井。
次は顔を右に向けて、ベッドを囲んでいるカーテンに視線を当てた。
ここは、2ヶ月前まで彼が瞳に映していた光景。
あの時は、いつもどんな気持ちでカーテンを眺めていたのだろうか。
隣のベッドには私が横になっていて、キャッチボールのようにお互いの声を届け合っていた。
つい最近の事なのに、不思議と懐かしく感じる。
今や、このベッドは彼の存在も残り香もしない。
あの時は手を伸ばせば触れ合えた指先。
今はもう二度と触れ合う事はないだろう。
ゆっくりと目を瞑れば、彼との幸せな思い出が蘇る。
でも、目を開けば彼のいない寂しい現実が待っている。
隣から名前を呼んでくれる彼には、もう二度と会えない。
所詮、芸能人と一般人の恋なんていっ時の儚い夢なのかもしれない。
「………っく、……ぐすっ…」
閉ざされたカーテンの中から紗南の咽び泣く声が漏れていく。
唯一、影の応援者であった養護教諭は、泣き声が耳に入るなり胸がギュッと締め付けられた。