プラトニック ラブ
大切な思い出
『足首が浸かるくらい大雪が降ったら、俺達はまた会おう』
小さく『うん』と伝えた返事は咽び泣く声に紛れ込んだ。
ーーでもあれから数年間、足首が浸かるほどの大雪は一度も降らなかったし、再会場所を決めてなかったから、彼にはもう二度と会えないんじゃないかと諦めていたけど……。
約6年後、高校の保健室のベッドで知らぬうちにカーテン越しの再会を果たしていた。
彼は窓際のベッドがいつも特等席だった。
カーテンは毎回閉ざしたまま。
カーテン越しから疲れたような声が届くような状態が続いていた。
再会を願っていたはずの2人がこんなに近くにいたのに、最初はお互いの存在に気付かなかった。
ベッドを囲むカーテンで仕切られた空間と、保健室利用記録表とベッドのサイドに置かれている上履きに名前の代わりに書かれていた★マークというトップシークレットな個人情報がすぐに気付かない要因だった。
最初は保健室に男子と2人きりという状況が気まずくて、自分からカーテン越しにコミュニケーションを図った。
すると、彼の喉の調子が悪い事がキッカケで小学生の頃から常に持ち歩いている星型の飴を手渡すと、彼は星型の飴に纏わる話に興味を湧かせた。
歌が上手く歌えなくて落ち込んでいた自分に一星という名の1文字を取った星型の飴をくれた皆川くんの話。
声楽教室に通っていた思い出話。
声楽教室の先生が作詞作曲した歌など、幼馴染との思い出を全て語った。
ところが、彼は先に私の話と自分の思い出が一致していた気付いて、隣のベッドの人物が幼馴染の私と判明していたけど、自分が本人だとカミングアウトしなかった。
その理由は、昔交わした約束を大切にしていたから。
そして、降るか降らないかもわからない大雪の日をいつでも迎えられるように、秋から年明けまでの仕事を調整して再会の日を心待ちにしてくれていた。
一方、そんな想いなど知る由もない私は、いつしか彼の声に惹かれていて会えない時間に思いを募らせながら暗く沈んだ時を過ごしていた。