プラトニック ラブ
最初で最後のチャンス
「……いつ日本を発つの?」
セイは冴木に尋ねた。
「1ヶ月後よ。期間は2年間」
「そんなに早くアメリカへ?」
「先方の都合なの。後ろのスケジュールが押してるみたい。貴方達の今後のスケジュールに関しては、代打を探して整理していくつもり。それと、留学前にはベストアルバムを出す予定よ。再録しないから安心して」
「やったな!セイ。念願だった夢がすぐそこにある。お前、アメリカにめっちゃ行きたがってたもんな」
「……あぁ」
「今回のチャンスを逃したら次はないと思って。それにマイケル・リー先生は人一倍気難しい方と噂されてるの。今回の予約を取りつけるのに、かなりの労力を費やしたわ。事務所も総上げで貴方達のサポートをしていくわね。上手くいくよう期待してる」
ニコリと微笑んだ冴木さんは、俺達からすると頼りになる姉のような存在だ。
デビュー前からずっとお世話になっている。
だからこそ、今回の件も含めて俺達の活躍を心から期待している。
留学期間は2年間。
実力が不十分な今の自分達は、まるで壁紙すら貼られていない外観を重視しただけの戸建てのよう。
ひと気や生活感がない、ただの建造物。
温もりのある立派な家屋として完成させるには、一流の先生から教わるダンスは欠かせないものとなるだろう。
セイは念願だった夢が間近に迫ると、気持ちが揺さぶられて期待に胸が膨らんだ。
でも、留学と引き換えになるものもある。
それは紗南と一緒に過ごす時間。
留学を考えた頃にはなかった大事なものが、留学が決定した今は持っている。