国の再建のために捨てられたもと皇太子妃ですが強く生きています
アドルフには即位時に尽力してくれた末端貴族たちがいる。

カーティスはタナー男爵家の令息で、男爵は革命派のギルドに所属しており父子ともにアドルフを支えてくれた。
タナー男爵には伯爵位を叙爵するつもりだ。
ロゼレムはリーバー伯爵家の令息で、ライネル王国との取引に尽力してくれている。侯爵位を叙爵する。
他にもたくさんの功労者がおり、叙爵式を行わなければならない。

アドルフはマナワ族との交渉に少し安堵し、執務室に戻るといつもの茶色の流れるような美しく長い髪がカーティスの横に見えた。

『アイリーン・マッキノン』だ。
即位時に尽力してくれた。マッキノン子爵家の令嬢で今年20歳になる。才女の名高く、女性でありながら能力が高いのでカーティスの執務補佐を任じている。

「陛下…」

物音に気付いたのかこちらを振り向くと、案の定ドキッとする。
まだ慣れない。
あまりにこのエメラルドグリーンの瞳がオリヴィアと似ていることに。
顔立ちや髪色も髪質も違うのに瞳だけがとても似ている。

まるでオリヴィアがここにるかのように…。

いや、オリヴィアではない。

「アイリーン嬢。早速頼みたいことがある。マナワ族との会合の録音だ。消えてしまう前に書き写しておいてくれ」

「はい。かしこまりました。陛下」

この世には魔力でつくられた録音機たるものがある。
ただ、1時間もすれば消えてしまうのではやめに中身を書き写さねばならない。

「至急作成いたします」

アドルフはあえてアイリーンとは目を合わさないように気をつけつつ、また自分の仕事に没頭していくのだった。
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