国の再建のために捨てられたもと皇太子妃ですが強く生きています
「ロゼレム。少し外を散歩してくる」

「ですが…陛下」

危険だといいたいのだろうが、もともとは戦場で育ったようなアドルフだ。刺客が来ても対処できる。

「大丈夫だ」

「わかりました」

フードを目深くかぶると外にでた。

初夏の陽気のソリアは活気にあふれている。

ライネル王国はカルトナー帝国とちがって、国全域で天候が比較的安定していて土壌も豊かなので、飢饉も少なく、裕福な国だ。
王族は税金を搾取しすぎることなく、国を広げるなどの野心もなく、そう大きくない領土を保つことだけを考えながら国民とともに暮らしている。
豊かな国だ。

貴族ももう何十年も同じ一族が統治している。

争いごとの多いカルトナーとは全然違うなとゆったりとした空気が流れるソリアの市場を回った。

平和だ。

こんな平和がいつかカルトナーにも訪れるのだろうか…。

屋台を回っていると、かつてオリヴィアとともにお忍びで行った祭りで買って食べたバナナクレープなるものが売っているではないか。

懐かしいな。
あのときオリヴィアは欲張って3つも買って食べられずに結局泣きながら、食べ物を粗末にしてごめんなさいと屋台の奥さんに謝りにいったのだった。
奥さんは笑って許してくれたっけ。

結局あのクレープは屋台の前にいた子どもにあげたのだったな。

思わず笑みがもれたときだ。
となりの屋台から小さな塊が突進してきたのだ。
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