国の再建のために捨てられたもと皇太子妃ですが強く生きています
「うわっ!」

そのかわいらしい声の主はとても愛らしい顔をアドルフに向け見上げてくる。

かわいらしい男の子だな。

「ご、ごめんなさいっ」

見るとアドルフのおしりのところが汚れている。
どうやら男の子は密のついた餅を持っていたらしい。

「服が…」

しゅんとしておびえるように肩をすくめて下を向いている。

ほとんど接したことがなかった子どもというものの扱いになれていない自分ではあったが、あまりにかわいらしいその容姿に、思わずその場に屈むと、男の子と同じ目線になりそのオリーブ色の髪をなでた。

オリヴィアと同じ色だ。

「大丈夫だ。これくらい大したことない。あとで拭いておくから気するな」

すると男の子が心配そうに視線をあげ、アドルフを見つめる。

その紫の瞳があどけなくかわいらしい。

なんともかわいらしいものだな。子どもとは。

「ほんとにいいのですか?」

きちんと話せるようにしつけてあるらしい。貴族の子だろうか。

「ああ。問題ないよ」

「ありがとうございます!」

ぱあっと明るい表情になった男の子の頭を再びなでたときだ。

「ノア。どうしたの?」

頭上から女性の声がした。

え?

「申し訳ありません。子どもがご迷惑を?お召し物を汚してしまったのではないですか?」

アドルフは心臓がバクバクと高鳴るのを感じた。
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