エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 確かにそうだ。見合いでも交際の延長でもない結婚話。どういうタイミングでも急な話となるのは違いない。

 だからといって到底受け入れられるわけではないけれど。

 突然のことでどうしたらいいのかわからない菜摘は黙り込んでしまう。

 そんな彼女を見た賢哉が口を開いた。

「いきなり現れて結婚と言われて、彼女も驚いている。日を改めてくれませんか?」

 菜摘の様子を慮っての言葉だった。しかしその言葉を清貴は冷たくあしらう。

「俺も暇じゃない。後日にしたところで状況は悪くなる一方だ」

 彼の言う通りだ。従業員や取引先への支払いは間もなく。時間がないのは確かだった。

 菜摘は顔を上げて清貴の表情を窺う。そして改めて思う。本当に同じ人物なのかと。

 昔は喧嘩していても、こちらを気遣うような雰囲気が感じられた。しかし今はどうだ。人が変わったように冷たい表情を崩さない。

 そんな変わってしまった彼を目の前にして、まともな判断ができるはずもない。

 しかし彼は菜摘のそんな態度を許さなかった。

「ここでは邪魔が入る。俺と一緒に来い」

 いきなり手を握られて立ち上がる。その時に感じた体温に昔の彼を感じて思わず顔を見る。相変わらず表情は硬いが、彼に間違いないのだ。

「加美さん、それ以上は――」

「大丈夫だから」

 賢哉の声を菜摘が制止した。そして彼女は立ち上がって清貴の方へ向く。

「では、菜摘さんはお借りします」

 清貴が和利に断りを入れる。

「ええ、もう好きにしていただいて結構ですから」

 へらへらと笑う和利の態度に菜摘が怒りの感情を持つ。しかし彼に対して怒ったのは彼女だけではなかった。

「彼女はあなたの所有物ではありません。俺は便宜上断っただけで、今後は言葉に気を付けてください」

 冷たく言い放つ清貴の意外な言葉に、菜摘をはじめ賢哉が和利も驚いた。

「いや、あの……その」

 和利は清貴の機嫌を損ねたのではと、しどろもどろになっている。しかしそんなのは知ったことではないと清貴は出口に向かう。

「では失礼」

 そう言い残すとちらっと後ろを向いて菜摘がついて来ているか確認した。慌てた彼女はデスクの上に放り出していたバッグを掴んで、清貴の後を追った。

 彼の車に乗せられて止まったのは近くの高台にある公園だった。ここは昔ふたりがまだ付き合っているころ、ふたりでよく訪れた場所だ。
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