エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
「菜摘はお父さんが残してくれた工場が無くなってもいいのか?」

「それは……嫌だけど」

 今も派遣社員として働いているのは、ほぼ毎日定時で帰れて工場の仕事を手伝うことができるからだ。正社員に憧れがないわけではないが、今の状態の工場を放っていくわけにはいかない。

「でもそれは私の都合でしょ? 清貴には何のメリットもないじゃない」

 話を聞いてもやはり納得できない。菜摘が探るような視線を清貴に向ける。

「俺にメリットがないわけじゃない。菜摘には加美電機の跡取りを産んでもらう」

「な、何言い出すのよ」

 慌てた菜摘は取り乱す。無理もない結婚の話もまだ受け入れられていないのに、跡取りすなわち清貴との子を儲けるという話をされているのだ。

 もう先ほどから菜摘の理解の範疇を越えている話ばかりだ。必死に冷静になろうとするけれどその都度、戸惑うばかり。

「結婚するんだから、子供を望むのはおかしい話じゃないだろう」

「それはそうだけど――」

「会社を継ぐには跡取りがいることが条件だ」

 菜摘の言葉を遮る清貴の言葉に、息をのむ。これが彼の本当の目的だったのだ。

「我が家の家訓で、跡継ぎを設けたうえで会社を継ぐ。祖父も父もそうやってきた。だから俺にも子供が必要だ」

「それなら余計に、私じゃなくったって他にいくらでもいるじゃない」

 それこそ菜摘でなくてはならない理由などない。清貴であれば彼が望めばいくらでも彼の妻になり跡取りを産んでくれる女性はいるはずだ。

「二年後に父が七十になる。最近引退をほのめかしているんだが、このままだといとこが後を継ぐことになる。父も俺もそれは避けたい」

 そのいとこがどういう人物かはわからないが、後継ぎの条件は満たしているようだ。

「そんな……」

「俺だってそんなバカげた理由で後継者を決めるなんて間違っていると思う。ただ今それを争う時間がない。俺にとって結婚には愛だの恋だの必要ないんだ。欲しいのは跡取りと従順な妻。それだけだ」

「でもだからって何で私なの?」

 清貴側の理由は分かった。しかしそれでなぜあんなひどい別れ方をした菜摘にこの話を持ってきたのかというのはまだわからない。

「もしかして、嫌がらせなの?」

 七年前彼のプライドを傷つけたのは確かだ。菜摘は後先考えずに思いを口にした。

 清貴はその言葉に冷笑をもらす。
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