エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
「嫌がらせ? 俺がまだあの程度のことを気にかけていると思っているのか?」

「そう……だよね」

 彼の冷ややかな笑いに、菜摘は自分が思い上がっていると指摘されたような気がして恥ずかしくなる。

 確かに過去に彼に対して非礼を働いた。しかし彼にとってはすでに過去のことなのだ。いつまでも引きずっている自分とは違って。

「いや、でも君が償いたちというのであれば受け入れよう。あのとき君は俺を裏切ったのだから」

「……っう」

 返す言葉もない。その通りだ。彼の中では菜摘は清貴ではなく賢哉を選んだことになっているのだから。

「さっきも言ったが二年しかないんだ。今から相手を探している暇はない。そもそも子供ができる行為をするにも相性があるだろう。その点菜摘が相手なら〝そっち〟に関しては問題ない」

 清貴に過去の記憶を掘り起こされて思わず顔が赤くなる。彼と過ごした特別な時間、それは今でも菜摘にとって大切なものだ。

――そう今、こんな愛のない求婚をされている今でも。

 そんな菜摘の反応を見て、清貴は口角だけ上げて静かに笑う。なんだか気持ちを見透かされているような気がして菜摘はむっとした。

「だからってこんな条件」

「のめない?」

 運転席から身を乗り出すようにして顔を覗き込まれた。その目に昔の彼の面影が重なる。

(もしかして、わざとやってる?)

 そう思ってしまうほど、菜摘は心をかき乱された。

 黙り込んでしまった彼女に脈を感じたのか、清貴は畳みかけるように話を続けた。

「この結婚は双方に利益がある。いや俺たちだけじゃない、あの工場の技術を生かせば今後の世界の技術が大きく進歩する」

「今までそんな話なかったのに」

「あの社長じゃ無理だろ。君のいとこは君のお父さんから受け継いだ技術をより良いものにしている。それをこのまま埋もれさせていいのか?」

 父の技術が賢哉によって引き継がれ、今このときに生きている。それは菜摘にとってどれほどうれしいことか。

「そんな風に言ってもらえるなんて、お父さんきっと喜んでる」

 思わず顔いっぱいに笑みを浮かべた菜摘を見た清貴が目を見開く。彼の驚いたような顔を不思議に思った。

「どうかした?」

 菜摘が問うと、清貴はすぐに視線を逸らした。

「なんでもない。それで受け入れる気になった?」
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