エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
「留学を取りやめてからも、こちらの授業は毎回出席してしっかりと勉強していたのに、就職は残念でしたね。こちらからいくつか紹介すると話をしたんですが、彼女はそれを固辞し実家の手伝いとの両立を図るために、いまだに派遣社員として働いているんだってね」

 あたかも仲の良かった清貴なら知っているだろうと、菜摘の個人情報をペラペラと話す。良い人だがこういううっかりしたところが昔からある人だった。

「そうなんですね、てっきり結婚して幸せになっているのだと思っていました」

 あれから七年も経っているのだ。あの従兄弟と家庭を持っていてもおかしくない。

「いや、そういう話は聞かないな。彼女はまだ独身だよ」

「えっ……あ、いや。そうなんですね」

 まさかと思い動揺してしまった。その場を取り繕ったが、こんな話をしたせいで今彼女がどんな暮らしをしているのか知りたくなってしまった。

 その足で菜摘の実家でもある工場へ車を走らせた。

 なぜ自分がこんなことをしているのか、自分でもよくわからない。しかし自宅へ帰ることはしなかった。

 夕方、子供たちが家路につく頃の時間だった。

 彼女の実家に赴いたところで、彼女がいるとは限らない。しかし清貴は運よく工場の外で彼女とスーツ姿の男が立ち話をしているのを目撃する。

 エンジンを止め、じっと彼女の様子を窺う。

 彼女はなにやらずっと頭を下げているようだ。

(少しやせたな、顔色も悪い気がする)

 ひと目見て抱いた気持ちは、怒りや嫌悪感でなく、彼女を心配するものだったことに自分でも驚く。

 あんなにひどく気持ちもプライドも傷つけられた相手なのに自分にこんな感情を抱かせるなんて……ここでやっとまるで八つ当たりのような小さな怒りが湧く。

 しかしその後すぐに、彼女の隣にひとりの男が立つのを見て、顔をゆがませた。それは彼女が自分を捨てて選んだはずの、従兄弟の賢哉だった。

 ふたりそろってスーツ姿の男性に、ぺこぺこと頭を下げている。その姿を見ていると、清貴の中にイライラが募る。

 やがて相手の男が去っていくと、菜摘の背中を賢哉がポンと叩きなぐさめているようだ。それに応える形で笑顔になった彼女を見てまたいらだつ。

(なんで俺がこんな気持ちになるんだっ!)
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