エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 戸惑っている菜摘をよそに、女性はさっさと彼女を奥のカーテンの中に案内して名刺を差し出してきたので受け取った。

「スタイリストの方ですか?」

「はい、本日はご主人様より奥様のお洋服を何点か選ぶようにうかがっています。こちらに」

「え……でも」

 どうやらここはサロン形式のショップのようだ。しかし彼からそんな話は聞いてない。

 菜摘はほんの少し抵抗したが、女性がわずかに困った表情をしたのに気が付いて、ここで反論しても仕方ないと思い電話が終わった後どういうことなのか清貴に聞くことにして、とりあえず女性に従った。

 フィッテングルームと言ってしまっていいのかわからないくらい広い中、ラックに掛けられている洋服はドレスやスーツ、それに少しカジュアルなワンピースなどもあった。大きなテーブルの上にはバッグやアクセサリーが並んでおり、反対側には靴も並べられていた。

 今まで利用したことのないタイプの店に緊張した菜摘は、渡された洋服を黙って身に着けた。

 最初に渡されたのは、クリーム色のシフォンのワンピースだった。膝丈のフレアスカートのすそには白い小花の刺繍がほどこしてある。上半身のトップスは深めのラウンドネックになっており、鎖骨を美しく見せている。

「このあたりのアクセサリーを一緒に浸けていただくと、とてもかわいらしいですよ。パールを合わせるときっちりとした印象になります」

 これまであまりおしゃれをしてこなかった菜摘にとって、このような場所は場違いだと思う一方、やはり綺麗な洋服を身に着けると今までの自分とは違って見えて心が弾む。

「すごくお似合いです。こちらを向いてください」

 スタッフの女性が、タブレット端末を使って何枚か写真を撮る。

「こうやって画像で確認すると、鏡で見るより客観的に判断できますよ。うん、丈もいいですね。お上品です」

「変じゃないですか?」

「いいえ、まったく! 私、また自分の仕事に誇りを持てました。それくらいお似合いです」

 わざとおどけた女性の言葉に、菜摘も顔をほころばせた。

 菜摘はスタッフと一緒に、写真を確認しながら、用意された服を何着が身に着けた。

「最終的にはご主人様に確認しましょうか?」

「そうです……ね」

 果たして清貴が菜摘の服装に興味があるのか疑問だが、ここに来たのは彼の希望なので何を購入するか相談して決めなくてはならないだろう。
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