エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 割り切った結婚を望む彼にとって迷惑な感情でしかない彼への思いを、どうにか制御することが今後うまくやっていくための鍵になる。

 もう一度深い呼吸をした、菜摘は周囲を見渡す。随分時間が経ってしまったのかシャボン玉で遊んでいた親子連れはいなくなっていて、あたりも暗くなりかけていた。

 出戻れば賢哉や桃子が心配する。それに清貴と話をするタイミングも逃すだろう。仲直りは早い方がいい。

 菜摘はゆっくりと立ち上がると覚悟を決めて、今日からふたりで暮らす新居に電車で向かった。

(とりあえず鍵はあるけど……)

 引っ越しを済ませた時にすでに鍵はもらっていた。だから入ろうと思えばすぐに中に入れるのに、菜摘は玄関の扉の前で何度かドアノブに手をかけて、離してを繰り返していた。

 深呼吸をして、カードキーを差し込むと電子の解錠音が聞こえる。ドアノブをにぎり扉を開くと部屋の中からバタバタと音が聞こえてきて、そのあと勢いよく扉が開いて顔をぶつけそうになり慌ててよけた。

「菜摘!どこに行っていた?」

 中から顔を出したのは、清貴だ。一緒に暮しているのだからなんら不思議ではないが、その焦った様子にこっちが面食らう。

 しかし先ほど公園でシミュレーションをしたように冷静に答えた。

「勝手してごめんなさい。次はらはちゃんとします」

 そっけない言い方になってしまったが、今の菜摘にはこれが限界だった。


「電話にもでないし、心配するだろう」

「心配? 怒ってるんじゃなくて?」

「なんで俺が怒る?」

 お互い顔を見て首を傾げ合う。

「だって……私あなたに恥をかかせたから。顔なじみの店であんな態度をとってしまってごめんなさい」

 妻だと紹介したのに、不機嫌になって飛び出すなんて熱心にアドバイスしてくれた相手に失礼だった。それにそんな程度の妻を迎えたと清貴がバカにされたかもしれない。

「それは問題ない。向こうもプロだ。申し訳ないと思うならこれからあの店に金を散々落とせばいい」

 菜摘が頷くと、清貴が言葉を続けた。
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