エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 菜摘も笑顔を浮かべて、清貴の後を追う。

 実家の周りは完成な住宅街で、あまり人は多くないが、街灯は多く夜でもそこまで暗くない。

 その住宅街の中にある緑の多い公園の中に足を踏み入れた。奥の方に砂場やブランコがあるが、手前の方は舗装された遊歩道が木々に囲まれていて、ジョギングしている人とすれ違う。

「あっ」

「すみません、時計を見ていて」

 後ろから来た人と肩がぶつかった。

「大丈夫です」

 笑みを浮かべて平気だと伝えた菜摘だったが、相手が恐怖の表情を浮かべて首を傾げた。相手の視線の先は、菜摘の後ろにいる清貴に向けられている。

 振り向くとそれは怖い顔をしている清貴がいた。鋭い視線で相手を睨んでいる。

「す、すみませんでした」

 脱兎のごとく逃げ出した相手が少しかわいそうになる。

「わざとじゃないんだし、そんなに怒らなくてもいいんじゃないの?」

 菜摘の言葉に、清貴はますます不満げだ。

「ケガでもしたらどうする、今日は何の日かわかっているのか?」

 そう言いながら、彼は菜摘の手を握った。

 彼の言う「何の日なのか」というのは、もちろん菜摘も理解している。だから今顔がほんのりと赤くなっている。街灯の下なので清貴も気が付いているかもしれない。

 今日はふたりが結婚した目的のひとつを果たす日だ。結婚した当初、言いづらかったが大切なことなので妊娠しやすい時期を前もって伝えたのは、菜摘自身だ。だから今日のことを知らないはずはない。

「わかってるよ、約束の日でしょ」

「それならいいが、手を繋いだだけで驚いているようじゃ、今日の夜は大丈夫なのか?」

 揶揄するように含み笑いを浮かべた清貴。彼は赤い顔で黙ってしまった菜摘を追撃する。

「キスの仕方すら忘れていそうだな」

 実際、彼と別れてから誰ともそういうことをしていない。忘れてはいないと思うが自信がなかった。ここで頼れるのは彼しかいない。

「清貴が、思い出させてくれる?」

 恥を忍んで彼の顔を見る。一瞬驚いた顔をしたがすぐにいつもの冷静な顔になる。

「あの、嫌なら――あっ……んっ」

 グイっと手を引かれたかと思うと、気が付いたときには菜摘の唇は彼に奪われていた。熱を持った柔らかい唇が、昔の記憶を呼び起こす。
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