エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~

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 菜摘が出て行った後、清貴はひとりベッドに座っていた。彼女のいた場所はまだぬくもりが残っている。ふと目をつむると昨夜のなまめかしい彼女の姿を思い出しそうになって、体が熱くなりそうになったのを必死になって耐えた。

 柄にもなく夢中になってしまった。口元を押さえて自分の感情が爆発しそうになるのを必死になって耐えた。

 柔らかい肌、興奮してピンク色に染まった頬。うわずった声。初めて彼女を抱くわけでもないのに、あり得ないほど興奮した。

 それでも最大限優しく抱いたつもりだ。彼女ももちろん嫌がってはいなかった……はずだ。一度では終わらずに、二度、三度と彼女を求めてしまったのは、完全に清貴にとっても計算外のことではあったが。

 菜摘は恥じらいながらも受け入れてくれた。だからといってこのまま暴走するわけにはいかない。

 何しろ工場の再建をたてに、無理矢理結婚を迫ったのは自分なのだから。それに加えて跡取りまで希望している。厚かましいことはわかっている。しかし再開後はじめて彼女を抱いてわかったことがある。

 やはり菜摘じゃないとダメなのだということだ。あんなふうに後先考えずに、興奮して抱きたいと思う女性は彼女だけだ。もっと欲しいと思わせてくれるのは彼女だけなのだ。

 だからこそもう二度と手放すことはできない。

 思えばこれまでも色々と失敗している。

 入籍の日。いつもよりもメイクも髪型も凝っていて、かわいらしいワンピースを身に着けている菜摘を見て、心が浮足立った。

 やっとあのいとこから引き離すことができるという思いと相まって、あの日は冷静に物事を考えられなかった。

(もっと可愛い格好をさせたい。彼女もきっと喜ぶはず)

 そんな考えからなじみのセレクトショップに連れて行ったはいいものの、俺の言葉が足らずに彼女をさっそく怒らせてしまった。

 夫婦になった途端、自分の前から姿をくらました妻。自分の失態に途方に暮れた。

 いなくなった彼女に連絡をするが返事はない。彼女の行きそうなところを探そうにも、行き場所なんて見当もつかなかった。

 七年間の空白が、昔と今は違うのだと清貴をあざ笑った。

 互いに思い合っていたときとは、何もかも違うのだ。

 だがそのときでさえ、自分ができたことは過去の自分の記憶に助けてもらうことだけだった。
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