エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 数時間後彼女がちゃんとマンションに戻ってきてくれ、心からほっとした。

 自分の配慮のなさが今後また彼女を傷つけるかもしれない。そもそも自分の嫉妬心や所有欲で無理矢理彼女を自分の妻とした自覚はあるのだ。しかし彼女を傷つけたくない。

 やっていることは横暴極まりないのに、悲しませたくない。

 自分の中で生じる矛盾を、どうやっても解決できずにずっともがいている。

 だからこそ互いに歩みよる提案をした。優しい彼女がそれを受け入れてくれたことに安堵した。

 結婚提案したときに彼女は「嫌がらせ」なのかと尋ねてきた。それに対して「償ってくれ」とも言ったが、本当はそんなもの求めていない。

(俺が彼女に求めているものは……求めているものは……)

 いったい何なのか、答えを出そうにもうまく出ない。

 菜摘のことになると冷静になれない。菜摘が誰のものでもないと分かった瞬間、自分のものにしたいという感情だけが心の奥底から湧き上がってきただけだった。ただそれだけ。

 しかしその気持ちがどうしようもなく抑えられない。結果無理矢理彼女を手にした。どうして彼女が独身だったのか、今の彼女の気持ちがどうなのか、そういった面倒なことすべてから目を逸らして、ただ彼女が自分の隣にいることその事実だけに目を向けた。

 それが正しいのかどうか、考えることを放棄している。

 ただ今の自分にできることは、彼女を傷つけず悲しませないようにすることだ。時間がたてば自分の気持ちにも整理がつくはずだ。いや、つけなくてはいけない。

「清貴、シャワーどうぞ」

「あぁ、ありがとう」

 扉の向こうから菜摘の声がした。さっきまで温かいと感じていた彼女がいたその場所はすでに冷たくなっていた。

 感傷的になる必要はない。扉を開ければ彼女がいるのだ。他の誰のものでもない、清貴のものである菜摘が。

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