エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 様子を見ていた清貴が、脚立の向こうから顔を出す。

「いきなりでドキドキしましたが、うまくいって良かったです。ところで何で追われてるんですか?」

 勢いでかくまってしまったけれど、もしかしたらこの人があの女性たちに追われるような悪いことをしていたのかもしれない。今更そういう考えが頭に浮かんで警戒する。

「んー、俺がかっこいいから?」

「はぁ?」

 初対面の相手に使う言葉遣いじゃないことはわかっている。けれど菜摘の口から自然に漏れた言葉に彼女の気持ちが現れている。

(何言ってるの……って、たしかにかっこいいけど)

 菜摘はこの時初めて彼の顔をまともに見た。整った顔立ちに洗練された身のこなし。たしかに自分でかっこいいというだけはある。

「あの、もちろん冗談だから、真に受けるなよ」

 ぽかんと見とれていた菜摘を見た彼が、口元にこぶしを持っていき何とか笑いをこらえている。

「あ、すみません。なんか見とれちゃって」

「まあ、それもよくあることだから。あ、自慢じゃなくて事実だから」

「それも冗談ですか?」

「いや、どっちだろうね」

(絶対、事実だ。さらっとこんなこと言えるんだもの)

 やりとりに耐えられなくなったのか、清貴は「ははは」と声を上げて笑った。途中通りかかった司書に「静かに」と怒られてしまう。

 ふたりして頭を下げて、お互い顔を見合わせてまた笑ってしまった。いたずらがばれた小学生みたいな雰囲気に、菜摘も初対面の相手とは思えないほど親しみを覚えていた。

 ひとしきり笑いあった後、清貴が菜摘に本を差し出した。

「本当に助かったよ。あと、これ約束の本」

「あ、ありがとうございます。貸出の手続きしてきます」

 受け取って歩き出そうとした菜摘を、清貴が呼び止めた。

「待って。貸出し手続きをする必要はない」

「え……でも、それって違反じゃないですか?」

 途端に顔を曇らせた菜摘に、清貴は苦笑する。

「いいんだ。それ俺のだから」

「え! そうだったんですか? 私図書館のものだとすっかり勘違いしていて、ごめんなさい」
 自分の早とちりに顔を赤くしながら、清貴に本を差し出した。先ほど図書館のデーターベースで確認したときに貸し出し中になっていたので、彼が借りたのだと思い込んでいたのだ。

「なんで謝る? これは俺個人から君に貸す。返却期限は図書館と同じ二週間でどう?」

「いいんですか?」
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