エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 そういって一緒にバスルームを使うことになったはずだ。

「そうだったか? 忘れた」

 完全にとぼけるつもりだ。菜摘がまだ指摘を続けようとしたけれど、清貴のいたずらな手がそれを許してくれない。

「いいから、黙って。いい匂いのする菜摘になろう」

 大きな手のひらが素肌の上を滑っていく。体を洗っているというのは建前かと思うほど、清貴の手は菜摘を翻弄して難しいことを一切考えさせないようにした。

 体がどんどんほてっていく。アルコールで熱くなったときの比ではない。体の奥から湧き出るような甘い熱に菜摘は立っていられなくなって壁に手をついた。

 しかしその体勢が余計に清貴を煽った。彼の手はますます縦横無尽にかつ的確に菜摘を刺激した。そのうえ耳元に寄せられた唇から漏れる熱い吐息に菜摘の体の芯が震える。

(何、これ……もう……私)

 そういう行為をしているわけではないにも関わらず、体はすでに彼を欲している。しかしそれを自分から言い出すことはできない。

「気持ちいい?」

 甘い声で聴かれて、うんうんと思わず頷いてしまった。

「そう、じゃあもっとしようか」

 清貴の言葉に、菜摘の理性は吹き飛んだ。もう一度、うなずいて振り向くと視線が絡んだ。

 情欲の満ちた彼の視線に射抜かれ体の奥から熱いものがあふれ出し、頭の中は彼でいっぱいになる。

「きよ……たか……もう、私」

 ねだるような声が出てしまったが、自分ではどうしようもない。

「なにも考えずに、全部俺に預けて」

 清貴は熱のこもった声でそう紡いだ唇で、菜摘の唇をふさいだ。

 菜摘にはそこからの鮮明な記憶がない。感情と身体を彼の手によって熱くとろけさせられた。

 気が付いたときにはぐったりとした体で、彼に抱かれたまま湯船につかっていた。

 ほんのり自分の醜態を思いだしては、恥ずかしさからうつむいている。できれば湯の中に顔をつけてしまって、彼から見えなくしたい。

 前後不覚に何考えずに彼にすべてをゆだねてしまった。今になってみれば恥ずかしいことこの上ない。

 しかし清貴はそんな状態の菜摘を見て、うれしそうにしてますます彼女に回した手に力を込めて素肌を密着させる。

「どうだった? 俺のプレゼント」

「うっ……し、知らないっ」
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