エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 背中から感じる彼の体温、それだけでも十分恥ずかしいのにさらに煽るような事を言う彼にどう答えていいのかさえわからない。そんな戸惑う菜摘を清貴はうれしそうに見つめていた。


 ふたりしてバスルームを後にして寝室に向かった。

 寝室でも清貴は「今日は誕生日だから」とかいがいしく菜摘の世話をした。髪を乾かして先ほどのボディジェルと同じシリーズのクリームで菜摘の足をマッサージし、丁寧ドライヤーをして髪をとかしてくれる。

 至れり尽くせりで申し訳ないほどだ。

 しかし菜摘が気になっているのは今日はふたりにとって結婚の条件の人のひとつである〝約束〟の日であるということだ。

 この雰囲気だときっと一緒に眠ることになるだろう。もともと約束の日だから問題があるわけではない。

 しかし彼にとっては義務の一環だ。

 今菜摘はすごく幸せな気分でいる。それは彼が夫としての務めを果たして妻としての菜摘の誕生日をねぎらってくれていることに対してだ。

 そしてこのままふたりは夫婦としての義務をベッドで果たすのだ。

 そう思うとすべてをむなしく感じてしまった。

 何度も自分に言い聞かせている。愛のない条件付きの結婚だと理解して受け入れた。しかしこういう幸せな時間が、恋心を揺さぶって彼の求める妻であることを忘れさせようとする。

 結婚の話が出た時の清貴の言葉を思い出す。

『俺にとって結婚には愛だの恋だの必要ないんだ』

 あのときの言葉を忘れてしまえば、彼に煩わしい思いを抱かせることになる。実家を救ってくれた彼、そして今までずっと忘れられなかった相手にそんな気持ちになってほしくない。

「難しい顔してどうかしたのか?」

 清貴が菜摘の顔を覗き込んできた。

「ううん、なんでもないよ」

 聞かれたとしても答えられるわけない。菜摘の悩みはこの結婚においてはルール違反のようなものだ。

「そうか。結構時間も遅くなったし寝るか」

 壁にかかっている時計は、すでに日付をまたいでいた。実質菜摘の誕生日は終わったのだ。

(夢のような時間は終わり、私は今からまた妻の役目を果たすの)

 そうやって自分に言い聞かせて、いざなわれるままベッドにもぐりこんだ。

 菜摘が横になったのを確認して清貴は部屋の明かりを消してベッドに入ってきた。いつもは自然な流れでそういう行為が始まる。だから今日も同じだと思っていた。
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