エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
「もちろんだ。最初からそのつもりだったし、本当に助かった」

 清貴はもう一度菜摘にその本をしっかりと握らせ、反対の手で自分のパンツのポケットからスマートフォンを取り出した。

「連絡先と、名前もいいかな?」

「あっ……はい」

 菜摘も急いでバッグからスマートフォンを取り出した。考える暇もなくあれよあれよという間に互いの連絡先を交換した。

「じゃあ、お借りします」

「あぁ、返却したくなったら連絡して」

 互いに笑顔で別れたその日、菜摘は友人清貴について尋ねてみて驚いた。

 それは詳しく彼について教えてくれたからだ。彼の存在を知らない菜摘の方がおかしいとまで言われてそのときになってはじめて、菜摘は自分が有名人をかくまったことを知った。

 だが、彼と知り合って本を借りたこと、連絡先を交換したことは言わないでいた。隠し事をしていることに罪悪感を持ったが、彼はきっと話してほしくないと思っているだろうから。

 それから十日ほど経ち本を読み終わった。すぐに返却したほうがいいと思ったが、いざ連絡をしようと思うとどういうやり取りをしたらいいのか迷う。

(ただ本を返すだけなのに、なに緊張しているの?)

 出会ったあの日は勢いもあって話をしたけれど、友人から清貴の話を聞くとなんだかとても緊張した。

 さっさと返却してしまえば済むのに、そうしてしまえば二度と彼と関わらないと思うと戸惑ってしまう。

(ただ本を貸してくれただけなのに……何考えてるんだろう)

 助けたお礼に本を借りただけ。ただそれだけでそれ以上でもそれ以下でもないのはわかっている。それなのにあの日ふたりで笑い合ったときの彼の笑顔が頭の中に浮かんでくる。

 しかし借りたままほうちしておくわけにもいかず、どういう文章がいいのか画面とにらめっこして考えていると、清貴の方から連絡があり菜摘は図書館の隣のカフェに呼び出された。

 座ってまっていると、周囲の空気が変わった。不思議に思って読んでいた本から顔を上げると入口からこちらに向かってくる清貴が目に入った。周囲の視線を浴びてもまったく気にする様子もない。

「ごめん、待たせた?」

「いいえ。私が早く来ただけなので」

 菜摘は清貴の背後を確認する。それを見た彼も後ろを振り向いたあと菜摘の顔を見て不思議がる。

「どうかしたのか?」

「いえ、この間みたいな人たちがいないかどうか確認したんです」
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