エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
「ありがとうございます、お義母様。そろそろお暇しますね」

 にっこりと笑みを浮かべたが、あまりうまくはなかったようで、返って来た祥子の笑顔もぎこちないものだった。

 綺麗にラッピングされた菓子を手に、バッグと取りにサンルームに戻る。扉を開けた瞬間、中に人がいておどろいた。

「澪さん?」

 彼女は菜摘の置いた荷物のあたりにいた。そしてその手に持ってるものを見て菜摘は血の気が引いた。

「返して」

 彼女の元に駆け寄って、その紙をとりあげた。それは先ほど病院でもらった検査結果と今後の治療方針のことを書いた紙だ。

「あら、野蛮ね。最低」

「最低なのはどっちですか? 人のものを勝手に触るなんて」

 始めて菜摘が怒りをあらわにしたのを見て、澪は面白がるように笑う。

「あなたが私に最低なんて言える? 子供も産めないのに、清貴くんの妻の座に居座るなんて。彼には跡取りが必要なのに、これって詐欺じゃないの?」

「ひどい……」

 菜摘の努力ではどうにもならないこと、そして彼女が一番傷つくところをえぐるように鋭い言葉を投げつけてくる。

「ひどいのはどっちよ。清貴くんはこのこと知っているの?」

 事実清貴にこのことを伝えるかどうかためらっていた菜摘は、彼女の言葉に打ちのめされた。

 彼女の言う通りだ。彼に何も知らせずに妻の座に居座ろうなんてむしがよすぎる。

「……自分で言うから、貴方はだまっていてください」

 人づてではなく自分からきっちり話をして、それから別れを切り出そう。ここにきてやっと決心がついた。

「あら、それが人にものを頼む態度なの?」

 澪の言葉にくやしくて、ぎゅっと唇を噛んだ」

「お願いします。黙っていてください」

 菜摘が深く頭を下げると「いい気味」だと、澪は高笑いをした。

 悔しくて涙がこぼれそうになるのを必死になって耐える。

 すると背後から祥子の声が聞こえた。

「あら、澪ちゃん?」

 菜摘がなかなかサンルームから戻ってこないので祥子が探しにきたのだ。そこで澪を見つけて声をかけたようだ。

 その瞬間彼女の顔がにっこりと花開いたように笑う。

「家政婦がおばさまがサンルームにいらっしゃるって言っていたから、探したんですよ。もう」

「あら、ごめんなさいね。何か約束をしていたかしら?」
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