エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 そう思ったが実家からだった。こんなときに……と思ったが昨日菜摘は実家で祥子と会っているその時に何かなかったか聞こうと通話ボタンを押した。

「もしもし」

『もしもし、いまちょっといいかしら?』

 やはり相手は祥子だった。

「ああ、ただしあまり時間がないから手短に」

 先に用件を聞いておこうと耳を貸す。

『さっきここに菜摘ちゃんが来たんだけど、様子がおかしかったの』

「菜摘が、そこにいるのか?」

『いいえ、昨日マドレーヌを入れていたバスケットを返しにきてくれたんだけどすぐに帰ったのよ。でもなんだか顔色も悪いし、無理して笑っているようだった』

「いつまでいた? すぐにそっちに向かう」

『え、待ちなさい――』

 清貴は実家には菜摘はすでにいないとわかっていても、何らかの手掛かりがあるかもしれないと思いまだ話をしている祥子の電話を切った。

 それから急いで車に乗り込み、焦る気持ちをどうにか落ち着かせながら実家に向かった。到着すると玄関では祥子と家政婦が顔を曇らせて清貴の到着を待っていた。

「清貴! いったいどういうことなの、何があったの?」

「説明はあとだ。菜摘がいなくなった」

「なんですって」

 祥子の顔が一気に青ざめ、口元に手をあてて目を見開いている。

「あぁ、どうしてさっき無理にでも引き留めなかったのかしら。様子がおかしいって思ったのに」

 目に涙をにじませた祥子の背中に清貴が手を添える。

「母さんが悪いわけじゃない。原因はすべて俺にある」

 彼女が何かに悩んでいるのに気が付かなかったのも、たったひとつの画像に心乱されて彼女を責めてしまったのもすべて清貴のせいだ。

 今さら悔やんだところでどうしようもない。今はとにかく菜摘の無事を確認したい。その思いで頭がいっぱいだった。

 今にも倒れそうな祥子をリビングのソファに座らせて、清貴は調査の結果がでていないかスマートフォンを確認する。しかしまだ何の連絡もなかった。

 こんな状況になって菜摘の知人や行先に見当がつかず、どれだけ自分が彼女のうわべしかみていなかったのかと思い知る。後悔ばかりが押し寄せてきて、清貴は自分の不甲斐なさに頭を抱えた。

 そんなとき場違いな声が部屋に響いた。

「清貴君の車があったけど、帰ってきてるの?」
< 90 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop